「麻の葉」文様がおしゃれな南部鉄器のフライパン‐平安時代から続く伝統の美しさ
日本の伝統文様には、動物や植物、昆虫といった生き物、雨や雷、波などの自然現象から着想を得たものが多くあります。日本人は古来、そうした文様を着物や道具、家具に取り入れることで、四季折々の風情を身近に感じ、その美しさや力強さにあやかろうとしたのです。
及富のオンラインショップでも、日本の伝統文様に願いを込め、日々の暮らしを豊かにするアイテムを取りそろえております。
涼しげな夏の文様「麻の葉」
南部鉄器 フライパン「麻の」の調理面には、6つの三角形を組み合わせた「麻の葉」という伝統文様が刻まれています。
麻の葉は中国由来の幾何学文様で、古くは仏像や繍仏(仏教の主題をテーマにした刺繍)の装飾として使われていました。その形が大麻(おおあさ)の葉に似ていることから、次第に麻の葉と呼ばれます。
麻は縄文時代から現代に至るまで、衣服や縄ひも、袋、それから蚊帳にも使われる身近な植物です。とくに夏場は、通気性と速乾性に優れた麻の服の出番も多いことでしょう。麻の葉も、緑が生い茂る夏の文様として親しまれています。
木工芸とも相性の良いデザイン
麻の葉は工芸品や建築の意匠に使われることの多い文様です。
たとえば、木工の伝統技法である「組子(くみこ)」。組子は、細い木材同士を穴や溝などを使ってはめ込むことで、幾何学的な模様を生み出す技法です。主に障子や欄間のような部屋の区切りとなる部分にあしらわれました。
光や風を通しながら程よい目隠しにもなり、見た目も洗練された組子の建具は、湿度のある日本の気候には最適です。
「寄木細工(よせぎざいく)」でも定番の模様とされています。さまざまな色合いや風合いの木片を組み合わせて模様をつくり出した種板(たねいた)を、0.15~0.2mmのシート状に削り出したものを板に貼り付けてつくります。
寄木細工は、日本にとって初の公式参加となった1873年のウィーン万博でも評判を呼びました。
ヨーロッパにも薄い木の板で絵や模様を表現する「マーケトリー」(具象的なモチーフを表現したもの)や「パーケトリー」(幾何学的なモチーフを表現したもの)といった木材による象嵌技法があります。けれど、寄木細工による全面に施された精緻な模様は、日本の職人の高い技術力を示して西欧諸国を驚かせたのです。
このように、直線的で細やかな麻の葉文様は、着物から家具・道具類まで幅広く用いられ、日々の暮らしを華やかに演出しました。
憧れの役者とおそろいの柄に
日本の伝統芸能である歌舞伎は、その人気も影響力も強く、歌舞伎役者が身に付けた衣装の色柄は、江戸庶民の間でたちまち流行しました。麻の葉文様も、歌舞伎を通じて大ブームを巻き起こします。
そのきっかけとなった演目が、「其往昔恋江戸染(そのむかしこいのえどぞめ)」「染模様妹背門松(そめもよういもせのかどまつ)」です。
「其往昔恋江戸染」は、八百屋の娘・お七と寺小姓(僧侶の側に仕えて世話をする少年)との許されぬ恋のお話で、お七は恋人に会うために、火の見櫓の太鼓を打って火事と勘違いさせ、木戸を開けさせます。お七役の五代目岩井半四郎は、絞り染めで麻の葉を表現した浅葱色(水色)の衣装で登場しました。
「染模様妹背門松」は油屋の娘・お染と使用人との身分違いの恋が引き起こした心中事件に取材した物語です。お染役の嵐璃寛(あらし りかん)は公演期間中に何度も衣装を替えたそうですが、その度に麻の葉の着物や帯を着用したと伝えられています。
どちらも切ないラブストーリーです。激しい恋心のために大胆な行動に出るヒロインは、江戸の女性たちの心を打ったのか、皆こぞって麻の葉文様の着物を身にまといました。この頃、麻の葉は「染模様妹背門松」のお染から取って「お染形(そめがた)」と呼ばれたそうです。
麻は真っすぐに伸び生長が早いことから、麻の葉文様には子どもがすくすくと育つという意味も込められています。さらに柄に継ぎ目がないことから魔が入らないとされ、縁起のいい文様でした。
当時は、度重なる飢饉(ききん)のほか、インフルエンザや天然痘などの疫病によって、幼くして命を落とすことも珍しくありません。そこで、麻の葉文様の産着(赤ちゃんの着物)や下着を着せ、子どもが健康に育つように願ったのです。
人気マンガ『鬼滅の刃』に登場する主人公の妹・竈門禰豆子(かまど ねずこ)も、麻の葉の着物です。こちらは大正時代を舞台にしたお話ですが、10代前半の禰豆子に若い女性に人気の柄を、成長を願って着せたのかもしれませんね。
便利で見栄えもする和柄フライパン
江戸時代に女性たちの心をわしづかみにし、子どもの健やかな成長を願って随所に使われた伝統文様・麻の葉。その麻の葉を施した南部鉄器 フライパン「麻の」は、2022年12月にクラウドファンディングサービス「Makuake」で約800万円ものご支援をいただき、誕生しました。
鋳鉄のフライパンは熱伝導率が低く、蓄熱性がよいのが特徴です。熱がゆっくり伝わり長く持続するため、焼きムラが出にくく、肉料理もおいしく仕上がります。また、凹凸によって具材がつきにくく、余分な油も落としてくれるのでヘルシーです。
鉄製なので重量は約1.6kgと重ためですが、直径22cmと中皿サイズなので、そのまま食卓に出しても邪魔になりません。
麻の葉文様の華やかな焼き目もついて、食欲をそそります。
美容と健康には食事も大切です。南部鉄器 フライパン「麻の」で料理をすれば、伝統文様の効果も相まって、より美しく元気になれるかもしれませんね。
フッ素樹脂加工のない「麻の」は丈夫で長持ちで、使えば使うほど手になじんでいきます。
ぜひ大切に育てて、次の世代に受け継いでほしいフライパンです。
出典・参考
ジュディス・ミラー, 岡部昌幸(日本語版監修). 西洋骨董官邸の教科書. パイ インターナショナル, 2018, 59
藤井謙三 監修. 格と季節がひと目でわかる—きものの文様 社団法人全日本きもの振興会推薦. 世界文化社, 2009, p.172
中江克己. 紋様の名前で読み解く日本史. 青春出版社, 2004, p.72-73.
村越一哲. “大名の乳幼児死亡率1651~1850年 : 大名系譜の分析”. 人口学研究, 1999, 24巻, p.15-31
水藤龍彦. “ウィーン万国博覧会(1873)とユストゥス・ブリンクマン”. 英語文化学会論集 19. 2010-03-20, 追手門学院大学英語文化学会, 2010, p. 15-23
箱根町観光協会. “寄木細工とは”. 箱根寄木細工
https://www.hakone.or.jp/yosegizaiku/about/index.html