スタビライザーの比較と衡量によるターンテーブル解題
メグロジョッキークラブ 野崎和宏

イントロダクション | 「そもそもカラオケでキーを変えるために付けられたテクニクスのターンテーブルのピッチ コントローラーを、アフリカンアメリカンたちがピッチを合わせるために使ったのがDJの 始まりである」というなんら信憑性のない神話が伝播しているほどに、Technics SL1200シ リーズのターンテーブルは圧倒的に現場レベルで支持されている。水晶発振制御のSL1200 MK2以前のサーボ制御モデルの回転ムラ補正のために搭載されたピッチコントローラー は、ダイレクトドライブという駆動機構とともに、音源を途切れることなくミックスするこ とを可能にした。それは音楽を再定義し、そこから数多のジャンルが生まれるに至ったの は、リリースされ続けるレコード盤が体現している。しかし、あまりにもスタンダードに過 ぎ、ターンテーブルのその性能に何ら疑問を持ち合わせてこなかったのもまた事実である。 スタビライザーという視点をめぐって、ターンテーブルという所与の機器を解題することで いま一度視野を展き、アナログレコードの歴史により良い再生を試みる視座を求めたい。 |
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ターンテーブル前史 | 元ベル研究所の音響技術者エミール・ベルリナーが1887年に考案したディスク(円盤)型レコ ード「グラモフォン」は、結果的に原盤としてレコード盤面を複製可能にし、プレスでの量 産実現はシリンダー(円筒)型レコード「グラフォフォン(蝋管=ワックス)」等他フォーマット を駆逐し、音楽を産業化する礎となった。1912年のSP盤から1948年のLP盤を経て、CDや DAT/MDからサブスクリプションに至る2021年現在までその生産は継続されている。そし て、その盤面を再生するものとしてのターンテーブルもまた、電機メーカーがレーベル部門 を設立し産業に投資してきた経緯と、デジタル化やアナログ再評価の曲折を経て、今日まで 生産が継続されている。スタビライザー実測に先立ち、ターンテーブルの構造と機能を特定 したい。 註)ベル研究所はグラハム・ベルが創業したAT&Tの研究開発部門であり、シリンダー型レコードの開発者トーマ ス・エジソンが創業したのはGE。グラモフォンはイギリス英語表記で、アメリカ英語表記ではフォノグラフ。米 グラミー賞の旧称はGramophone Award。12インチlpは1948年米CBS放送の音楽部門コロムビアが製品化、7 インチepは1949年RCAビクターが再生専用機とともに製品化し、1953年にはステレオフォニックが実用化され た。放送局や電機メーカーが音楽の産業化に投資したのである。 |
構造と機能 | 盤面に記録された音波の振動情報をフォノアンプに正確に伝送するためのターンテーブル は、低速でも安定的にプラッターを回転させる駆動部と、盤面に記録された音波振動をトレ ースしフォノアンプに送るアーム部とに大別できる。回転ムラ(ワウフラッター)を抑えて安 定的に駆動させつつ正確なトレースを実現するために、駆動部の制振には注力され、アイド 註)レコードはその面積が限られるために、溝に格納される音波振動の情報をRIAA(Recording Industry Association of America/全米レコード協会)が定めたカーブに加工して記録する。低域を記録するほど溝(ピッチ) は拡くなり、音量を記録するほど溝(デプス)は深くなるので、RIAAによる1953年制定のRIAAカーブに基づき、 低域を下げ/高域を上げて記録される。 |